インド 会社法(機関②)

2024年5月更新

1.取締役

(1)取締役の数(法第149条1項)

公開会社、非公開会社、及び一人会社の取締役数の上限及び下限は、下記のとおりとなります。

公開会社

非公開会社

一人会社

3名以上

2名以上

1名以上

15名以下

なお、いずれの会社も、株主総会の特別決議があれば15名を超える取締役を置くことも許されます。

(2)特に設置を義務付けられる取締役

インド会社法は、別途規則によって規定される一定の要件を充たす会社につき、以下の取締役の設置を義務付けています。

  • (a) 女性取締役(法第149条1項但書2)

    以下に該当する会社は、1名以上の女性取締役を置かなければなりません。
  • すべての上場会社
  • ①払込済株式資本が10億ルピー以上、又は②売上高が30億ルピー以上を有するその他すべての公開会社
  • (b) 居住取締役(法第149条3項)

    すべての会社は、当該会計年度に合計182日以上インドに滞在した取締役を1名以上置かなければなりません。但し、新規設立会社の場合においては、会社を設立した会計年度末において、上記の居住日数を比例的に充たせばよいとされています。
  • (c) 独立取締役(法第149条4項)

    すべての上場公開会社は、全取締役のうち3分の1以上の取締役を独立取締役としなければなりません。
    また、非上場公開会社で、①払込済株式資本が1億ルピー以上、又は②売上高が10億ルピー以上、又は③未払いローン債務及び社債等の総額が5億ルピーを超える場合は、2名以上の独立取締役を設置しなければなりません。但し、合弁会社、完全子会社、及びインド会社法上の休眠会社に該当する会社は、上記に該当する場合であっても独立取締役の設置義務はありません。

(3)取締役会によって選任することが認められるその他の種類の取締役

  • (a) 追加取締役(additional director)

    取締役会は、附属定款にその旨が規定されている場合、株主総会において取締役の任命決議を否決された者以外の者を、選任後最初の定時株主総会までを任期とする追加取締役としていつでも選任することができます(法第161条1項)。後述のとおり、取締役は株主総会によって選任されなければならないところ、取締役の辞任により新たな取締役を早急に選任しなければならない場合に、取締役会の選任決議のみで選任可能な追加取締役が利用されることが多く見受けられます。なお、取締役と追加取締役との間で、その権限及び義務について特に差異はありません。
  • (b) 代替取締役(alternate director)

    取締役会は、附属定款にその旨が規定されている場合、又は株主総会においてその旨の決議がされた場合、3ヶ月以上インドを不在にする取締役のため、当該会社においてすでに選任されている取締役・代替取締役以外の者を、その不在期間中にその職務を代行する代替取締役として選任することができます。なお、代替取締役の任期は、代替される取締役の任期を超えてはならず、また代替される取締役がインドに戻って来た場合、代替取締役は退任しなければなりません(法第162条1項)。

(4)選任・解任

すべての取締役は、株主総会普通決議によって選任されなければなりません(法第152条2項)。

また、審判所(Tribunal)によって選任された取締役でない限り、株主総会普通決議により、合理的な聴聞の機会を付与した後、その任期満了前に解任することができます(法第169条1項)。

(5)任期

  • (a) 公開会社

    公開会社の場合、附属定款においてすべての取締役が毎年の定時株主総会において退任する旨を規定していれば、その任期は選任された定時株主総会から次の定時株主総会までの期間となります。附属定款にこのような規定がない場合は、全取締役の3分の2以上の取締役は、毎年の定時株主総会においてローテーションで退任しなければなりません。(法第152条6項 (a))。
  • (b) 非公開会社

    非公開会社の場合、法は取締役の任期につき特に規定しておらず、附属定款においてその任期を自由に規定することができます。
  • (c) 代表取締役(managing director)及び常勤取締役(whole-time director)

    代表取締役及び常勤取締役の任期は一期5年以下とされています(法第196条2項)。
  • (d) 独立取締役

    独立取締役の任期は一期連続5年間までとされています。株主総会特別決議によって再任することができますが、二期連続10年間を超えることはできません。もっとも、退任してから3年経過すれば再度選任することができます(法第149条10項・11項)。

(6)不適格要件

  • (a) 選任不適格事由

    法第164条1項は、以下の事由に該当する者を取締役として選任することができない旨を規定しています。
  • 管轄裁判所によって心神耗弱であると宣告された者
  • 免責されていない破産者
  • 自己破産の申立てをし、その申立てが係属中である者
  • 不道徳行為か否かを問わず、その違法行為につき裁判所によって有罪判決を受け、それにより6月以上の禁固刑を宣告され、刑期の満了から5年が経過していない者(但し、7年以上の禁固刑を宣告された者は、取締役への任命資格を一切有しない)
  • 裁判所又は審判所により取締役選任につき不適格である旨の命令がなされ、その命令が効力を有している者
  • 保有する株式の払込みをせず、最終払込期日から6ヶ月を経過している者
  • 過去5年間に関連当事者間取引に関する法令違反につき有罪判決を受けた者
  • 取締役識別番号(DIN)を取得していない者
  • 法第165条に規定される取締役として兼務可能な会社数の制限を超えて取締役になろうとする者
  • (b) 再任不適格事由

    法第164条2項は、以下の事由に該当する会社の取締役である者又は取締役であった者を、当該事由の発生日から5年間、再任してはならない/他の会社の取締役として選任してはならない旨を規定しています。
  • 会計書類又は年次報告書を3会計年度連続して提出していない会社
  • 会社によって受領された預託金を払戻していない又はその利息を支払っていない場合、償還日に社債を償還していない又はその利息を支払っていない場合、もしくは宣言された配当金を支払っていない場合で、当該未払い又は未償還が1年以上継続している会社

(7)取締役に対する主な規制

  • (a) 利益相反取引

    すべての取締役は、取締役として出席する最初の取締役会及びその後の毎会計年度の最初の取締役会において、他の会社等との利害関係を開示しなければなりません。また、そのように開示された事項に変更があった場合は、変更後の最初の取締役会において、変更事項を開示しなければなりません(法第184条1項)。

    さらに、①取締役が単独又は共同でその株式を2%以上保有する法人、もしくは取締役がプロモーター、マネージャー、又はCEOである法人との間で締結される契約等について、もしくは②取締役がパートナー、オーナー、又は社員であるファーム、その他の社団との間で締結される契約等について、直接的又は間接的に利害関係を有する取締役は、当該契約につき決議される取締役会(当該取締役の出席は認められていません)においてその利害関係の性質を開示しなければなりません(法第184条2項)。
  • (b) 取締役に対する貸付け

    会社は、直接的か間接的かを問わず、その取締役又は取締役と利害関係を有する他の者等に対する貸付け、保証、及び担保提供が原則として禁止されています(法第185条1項)。

    但し、①全従業員に適用される雇用条件に従ったものである場合又は株主総会特別決議によって承認されたスキームに従ったものである場合における代表取締役又は常勤取締役に対するローンの場合、②会社の通常業務における貸付け、保証、及び担保提供で、各種の政府債券の利回り以上の金利で利息が課せられる場合、③親会社によるその完全子会社に対する貸付け又は完全子会社に対する貸付けに関する親会社の保証又は担保提供の場合(但し、当該貸付金が、子会社の主要な事業活動のために利用される場合に限ります)、もしくは④銀行又は金融機関によるその完全子会社に対する貸付けについての親会社の保証又は担保提供の場合(但し、当該貸付金が、子会社の主要な事業活動のために利用される場合に限ります)は例外的に認められています(法第185条3項)。
  • (c) 関連当事者間取引

    関連当事者とは、会社に関し、下記の者を意味すると定義されています(法第2条76項)。
  • (ⅰ) 取締役又はその親族
  • (ⅱ) 重要経営担当者又はその親族
  • (ⅲ) 取締役、支配人、又はその親族がパートナーである事務所
  • (ⅳ) 取締役又は支配人が社員又は取締役である非公開会社
  • (ⅴ) 取締役又は支配人が、その親族と共にその支払済株式資本の2%を超える株式を保有する公開会社
  • (ⅵ) その法人体の取締役会、代表取締役、支配人が、当該取締役又は支配人の助言・命令・指示に従って行動することが慣習となっている法人体
  • (ⅶ) 取締役又は支配人が、その者の助言・命令・指示に基づいて行動することが慣習となっているその者

会社が以下に関する契約を関連当事者と締結する場合、取締役会決議による同意、及び別途規則に規定される条件に従わなければなりません(法第188条1項)。

  • 商品又は原料の売買又は供給
  • 資産の売却、処分、譲受
  • 資産のリース
  • サービスの利用、提供
  • 商品、原料、サービス、資産の販売、譲受についての代理人の選任
  • 当該会社、その子会社、関連会社の役職又は地位へ当該関連当事者を選任すること
  • 当該会社の株式又は社債の引受け

但し、別途規則に定める金額以上の払込済株式資本を有する会社、もしくは別途規則に定める金額を超える取引の場合は、株主総会普通決議による事前承認が必要となります(法第188条1項但書1)。この場合の株主総会決議において、関連当事者が株主である場合、その株主は議決権を行使することができません(法第188条1項但書2)。また、法第188条1項の規定は、通常の業務における独立企業間価格に基づく取引には適用されません(法第188条1項但書4)。さらに、親会社とその完全子会社間の取引の場合、その完全子会社の決算が当該親会社の連結決算の対象とされ、かつ承認を求める株主総会にその決算書が上程される場合は、株主総会普通決議による事前承認は不要とされています(法第188条1項但書5)。

(8)報酬

取締役の報酬は、法第197条の規定に従い、附属定款又は株主総会普通決議(附属定款に株主総会特別決議によると規定されている場合は株主総会特別決議)によって決定されます(法第197条4項)。

  • (a) 公開会社の場合の報酬制限

    公開会社における取締役の報酬総額は、当該会計年度における純利益の11%を超えてはならないとされています(法第197条1項)。但し、株主総会での承認があれば、Schedule Vの条件に従い、純利益の11%を超えることもできます(同条項但書1)。

    また、株主総会特別決議による承認がない限り、代表取締役、常勤取締役、又はマネージャー一人あたりに支払われる報酬は、当該会計年度における純利益の5%を超えてはならず、2名以上の取締役がいる場合、これらの取締役とマネージャーの報酬総額は当該会計年度における純利益の10%を超えてはならないとされています(同条但書2 (i))。さらに、代表取締役及び常勤取締役以外の取締役に支払われる報酬総額は、代表取締役、常勤取締役又はマネージャーがいる場合は、当該会計年度における純利益の1%を超えてはならず、いない場合は3%を超えてはならないとされています(同条但書2 (ii))。

    なお、公開会社の代表取締役及び常勤取締役の報酬に関する条件は、取締役会の承認、次回の株主総会での承認が必要であり、さらにSchedule Vに規定されている条件と異なる場合は中央政府の承認が必要となります(法第196条4項)。
  • (b) 非公開会社の場合の適用除外

    なお、取締役の報酬を規制する法第197条1項の規定は公開会社のみに適用され、非公開会社には適用されません。

2.主要経営責任者(KMP: Key Managerial Personnel)

(1)定義

主要経営責任者とは、以下の者を意味すると定義されています(法第2条51項)。

  • ① 最高経営責任者(Chief Executive Officer)、又は代表取締役(managing director)、又はマネージャー
  • ② 会社秘書役(company secretary)
  • ③ 常勤取締役(whole-time director)
  • ④ 最高財務責任者(Chief Financial Officer)
  • ⑤ 取締役より1段階下の他の役員で、取締役会によって主要経営責任者として指名された常勤のその他の役員
  • ⑥ 別途規則によって定められるその他の役員

(2)選任

公開会社の代表取締役、常勤取締役、又はマネージャーは、法第197条及びSchedule Vの規定に従って選任され、選任に関する条件は、取締役会の承認、次回の株主総会での承認が必要であり、さらにSchedule Vに規定されている条件と異なる場合は中央政府の承認が必要となります(法第196条4項)。

(3)任期

代表取締役、常勤取締役、又はマネージャーの任期は5年以下とされています(法第196条2項)。

(4)常勤主要経営責任者の設置義務

上場会社、又は払込済株式資本が1億ルピー以上の公開会社は、以下の常勤主要経営責任者を設置しなければなりません(法第203条1項)。

  • ① 代表取締役、最高経営責任者、又はマネージャー(これらがいない場合は常勤取締役)
  • ② 会社秘書役
  • ③ 最高財務責任者

条1項)。

以上