エジプトに進出する外国企業に対する優遇措置

令和3年5月更新

1 はじめに

 エジプトに進出する外国企業に対する優遇措置は,2017年に新たに制定された新投資法(2017年法律72号。以下,「新投資法」といいます。)及びその施行規則(2017年首相令2310号。以下「施行規則」といいます。)において主に規定されています。本稿では,同法に規定された優遇措置の内容,及び,4種類の投資制度を中心に説明します。

 なお,本シリーズの「エジプトにおける投資・外資規制」において,新投資法の概要について説明がなされておりますので,ご参照下さい。

2 優遇措置の内容

 新投資法において,優遇措置は,共通優遇措置(General Incentives),特別優遇措置(Special Incentives)及び追加優遇措置(Additional Incentives)の3種類に分類されています。以下では,これらの措置の内容を順に述べます。

(1) 共通優遇措置

 共通優遇措置は,新投資法に準拠して行われるすべての投資プロジェクト(後述のフリーゾーンにおける投資を除く)に対して適用されます。

 主な共通優遇措置としては,以下が挙げられます。

  • ・ 商業登記簿への登記の日から5年間,会社等の基本定款,当該投資プロジェクトの事業に関連する信用供与契約書及び質権設定契約書,並びに会社等を新設するために必要な土地の登記に関する契約書に課せられる印紙税,公証人の認証費用及び登記費用の免除
  • ・ 会社等の設立のために必要なすべての機械設備等の輸入に適用される関税率のこれらの機械設備等の価額の2%への抑制

(2) 特別優遇措置

 特別優遇措置は,セクターAと呼ばれる所定の地域,又は,セクターBと呼ばれる所定の地域における所定の事業に係る投資に対して適用されます。

 セクターAに含まれる地域は,スエズ運河経済特区,ゴールデン・トライアングル経済特区,及び,以下の特徴を有する地域として指定される地域です。

  • ① 経済開発水準及び国内生産量が低く,かつ,インフォーマルセクターの規模が大きい。
  • ② 就業率が低い上,雇用機会が少なく,かつ,失業率が高い。
  • ③ 人口密度が著しく高い,教育の質が低い,非識字率が高い,保健サービスのレベルが低い,貧困率が高い。

 他方,セクターBは,セクターAとして指定される地域以外の地域において,セクターB該当事業として指定された事業[1]における投資を対象としています。

 特別優遇措置の適用を受ける主な要件は,当該投資プロジェクトを行うために新会社等が設立されることや,新会社等に会計帳簿が常時備え付けられていることなどです。

 特別優遇措置の内容は,プロジェクトの活動開始から7年間,課税純利益から以下の金額を税額控除することです。

  • ・ セクターAにおける投資:投資費用の50%
  • ・ セクターBにおける投資:投資費用の30%

(3) 追加優遇措置

 追加優遇措置は,特別優遇措置の適用を受ける投資プロジェクトを対象とします。この優遇措置は,閣僚評議会(the Cabinet of Ministers)が政令を発することにより,追加的に適用されます。追加優遇措置の主な内容は,以下のとおりです。

  • ・ 当該投資プロジェクトの輸出入を取り扱う専用の特別関税事務所の設立の許可
  • ・ 当該投資プロジェクトに割り当てられた不動産の設備を拡大する際に支払われた費用の全部又は一部,及び,技術的な訓練を行う際の費用の一部の政府による負担
  • ・ 工業プロジェクトの場合,土地引き渡し日から2年以内に生産を開始することを条件とした,割り当てられた土地の費用の半額の返還
  • ・ 関連法規に従った戦略的活動の一部に対する無償での土地の割り当て

(4) その他

 上記の各種優遇措置につき,投資・フリーゾーン庁(GAFI: General Authority of Investment & Free Zones)は,優遇措置の適用を受けるために必要な証明書を発行します。

 新投資法は,この証明書について,取り消すことができず,かつ,他の機関の承認なくして有効であり,全ての関係機関はこの証明書に基づいて行動し記載されているデータを尊重しなければならないと定めることにより,優遇措置の享受が妨げられないようにしています。

3 投資優遇措置の枠組み

(1) 投資受入の窓口機関

 エジプトに対する投資については,従来から,投資・フリーゾーン庁が受入の窓口としての役割を担ってきましたが,新投資法により,投資・フリーゾーン庁の窓口機能は強化され,投資プロジェクトに必要な許認可を取得するために必要な全てのサービスについて,投資家に対してワンストップ・ショップを提供することが予定されています。

(2) 4種類の投資制度

 新投資法は,エジプトへの投資を,内国投資(Inland Investments),投資ゾーン(Investment Zones)への投資,技術ゾーン(Technological Zones)への投資及びフリーゾーン(Free Zones)への投資という4種類に分類し,これらに対して,それぞれ異なる規定を設けています。以下では,これら4つの投資制度について順に述べます。

  • ア    内国投資

     内国投資は,フリーゾーン以外の地域においてなされる投資の総称です。

     内国投資においては,100%外国資本が所有する会社の設立も許されます。
  • イ    投資ゾーンへの投資

     投資ゾーンは,新投資法制定前の2007年から導入されていた制度です。投資ゾーンは,特定の投資活動などを行うために割り当てられた地域で,その開発インフラは,当該投資ゾーンの設置・管理・開発などを行うためのライセンスを有するデベロッパーにより管理されます。エジプトでは,2019年時点で,13の地域が投資ゾーンに指定されています。

     投資ゾーンの運営は,独立した理事会(Board of Directors of the Investment Zone)と執行部(Executive Office)が行うため,投資・フリーゾーン庁以外のいかなる行政機関も,投資ゾーンにおける投資に関する資産を凍結したり,不動産のライセンスを取り消したり,その他の措置を取ることはできません。

     投資ゾーンにおける投資は,共通優遇措置を享受することができると共に,条件を充たせば,特別優遇措置や追加優遇措置を受けることもできます。
  • ウ    技術ゾーンへの投資

     技術ゾーンは,電子工学,データセンター及びプログラミングといった通信及び情報技術分野について設置される投資ゾーンです。

     投資・フリーゾーン庁のホームページによると,現在,エジプトには7つの技術ゾーンが存在しています。

     技術ゾーン内に設立されたすべての種類のプロジェクトにおいて,ライセンスされた活動を行うために必要なすべての道具,供給品及び機械については,所定の条件と手順に従う限り,関税を含むエジプト国内における租税が免除されます。

     また,技術ゾーンに設立されたプロジェクトは,該当するセクターに応じて,特別優遇措置を受けることができます。
  • エ    フリーゾーンへの投資

     フリーゾーンには,公設のものと私設のものと2種類があります。

     公設フリーゾーンは,外国への輸出を主な目的とするプロジェクトを行うために設置され,独立した理事会によって管理されます。

     投資・フリーゾーン庁のホームページによると,現在,エジプトには9つの公設フリーゾーンがあり,政府は,インフラその他の設備や独立した税関などを提供しています。

     私設フリーゾーンは,公設フリーゾーンにおいて事業に必要なスペースが不足している場合などに設けられるもので,公設フリーゾーンと同じ特典を受け,同じ規制に服します。

     フリーゾーンにおける投資プロジェクトは,関税を含むエジプト国内における租税が免除されます。ただし,投資・フリーゾーン庁に対し,一定割合の手数料を支払う義務があります。

4 おわりに

 エジプトについては,人口規模が約1億人と比較的大きく,教育水準も徐々に高まってきていることなどから外国からの投資は概ね増加する傾向にあり,今回の新投資法等の制定は,そうした投資の受入を促進すると考えられます。 

 他方,エジプト政府の政策決定過程には疑問の声もあるほか,トルコやモロッコなどの近隣諸国と比較すると優遇措置が十分ではないという指摘もあることも,エジプトに進出する際には留意すべきと思われます。


[1] セクターB該当事業として指定された事業:①労働集約的プロジェクト,②中小規模のプロジェクト,③再生可能エネルギー・プロジェクト,④高等投資評議会が定める戦略的プロジェクト,⑤高等投資評議会が指定する観光プロジェクト,⑥高等投資評議会によって指定された電気事業,⑦エジプト国外に50%以上の製品を輸出するプロジェクト,⑧自動車及びその部品産業,⑨木材,家具,印刷,包装,化学産業,⑩抗生物質,がん治療及び化粧品,⑪食品,農産物及び農業廃棄物リサイクル,⑫エンジニアリング,金属,繊維,革産業,⑬情報技術,通信関連産業

以上