イスラエルにおける知的財産権について

令和6年5月更新

1.はじめに

 イスラエルにおける知的財産法は、特許法、商標法、意匠法及び著作権法などによって規定されています。

2.特許権について

 特許権については、「Patent Law of 1967」において規定されており、日本における実用新案権制度に相当する制度はありません。また、特許が登録されるためには、日本と同じように、①産業上の利用可能性、②新規性、③進歩性などの要件を充足する必要があります。次に、特許権の保護期間については、日本と同じように、出願日から20年間となります。もっとも、イスラエルの場合、医薬品については5年を限度として延長することが可能です。

 この点、出願においては、日本と同様に、先願主義を採用しています。つまり、同一の発明について複数の主体が特許出願をしたときに、特許法は重複する特許権が成立するのを認めておらず、同一の対象に権利が請求された場合には、最初に出願した者が優先されることになります。また、イスラエル国内に住所又は居所を有しない外国出願人は、イスラエルの代理人を選任して、特許出願手続を委託しなければなりません。

 また、審査官が実体審査を行った後に、①産業上の利用可能性、②新規性、③進歩性などの特許要件を充足しないと判断した場合には、出願人に対して、4カ月以内(延長自体は可能。)に補正することを命じることができます。

 審査官が、特許要件を満たすと判断した場合には、特許付与の決定がなされます。また、拒絶理由通知書に記載されている拒絶理由が、出願人が提出する補正書の提出により、解消された上で、審査官が、特許要件を満たすと判断した場合においても、特許付与の決定がなされます。

 一方で、仮に、かかる補正命令に応答しない場合、又は応答したが拒絶理由を解消できないと審査官が判断した場合には、拒絶理由通知書が発行されます。そして、特許付与の決定がなされた場合には、出願内容が公告により公衆の縦覧に供せられることになります。また、出願拒絶された場合、又は異議申立ての認容の決定がされた場合、不服を有する者は、拒絶又は決定の日から2か月以内に、地方裁判所に不服申立てをおこなうことができます。

3.商標権について

 商標権については、「Trademarks Ordinance of 1972」において規定されています。「商標」とは、商品を製造又は取り扱う関係人によって、使用され又は使用される予定である標章を意味し、「標章」とは、平面的又は立体的であるか否かに拘わらず、文字、数字、語、図形若しくはその他の記号又はこれらの結合を意味します。また、商標を出願する時点では、商標を実際に使用している必要はありません。

 次に、商標の保護期間は、日本と同じように、出願日から10年間となり、その後は、一定の手数料を支払えば、10年毎に更新が可能です。出願においては、商標法においても、先願主義を採用しています。また、イスラエル国内に住所又は居所を有しない外国出願人は、イスラエルの代理人を選任して、特許出願手続を委託しなければなりません。また、イスラエルの商標には出願公開制度はありません。

 審査官が、要件を充足していると判断した場合には、異議申立のために出願内容が公告されます。その後、出願公告日から3か月間の間、誰からも異議申立てが行われず、又は、異議申立てがあったとしても、かかる異議申立てに理由がないと判断され、決定が出た場合には、商標登録が認められます。

 一方で、仮に、審査官が、方式要件又は実体要件を満たしていないと判断した場合、拒絶理由通知書が送付されることになります。その後、かかる通知書に対し出願人が通知日から3か月(延長自体は可能。)以内に応答せず、又は拒絶理由を解消できなかった場合、当該商標出願は拒絶されることになります。また、拒絶決定に対しては、出願人は、不服申立てを行うことができます。

4.意匠権について

 意匠権については、「Designs Law of 2017」において規定されています。また、意匠登録の要件は、新規性及び独自性を有することが求められます。次に、特許権の保護期間については、日本と同じように、意匠登録出願の日から25年間となります。但し、イスラエルの場合は、意匠権の最初の存続期間は、出願日から5年であり、その後、更新することができ、2017年改正意匠法により、5年ごと4回更新することができ、合計すると出願日から最長25年とされました。また、イスラエルの商標には出願公開制度はありません。

 また、イスラエルにおいては、「登録意匠」のほかに、「未登録意匠」という制度があります。この制度は、新規性及び独自性を有するほか、意匠製品が、基準日の6カ月以内に、意匠の所有者又はその代理人によって、商業的に、イスラエル国内(インターネット上を含む)で販売に供され又は市場に流通している場合、「未登録意匠」として、基準日から3年間、一定の法的保護を受けることができます。

5.著作権について

 著作権については、「Copy Right law 2007」において規定されています。また、イスラエルも、ベルヌ条約の加盟国であるため、日本を含む加盟店の著作物の著作権はイスラエルにおいても保護されます。

 著作権の要件は、①著作物が、著作者保護の対象となるカテゴリー(文学作品、芸術作品、演劇作品、音楽作品等)のいずれかに該当すること、②著作物が独創性を有する事、③著作物が媒体に十分に固定されていること、④著作物が、著作権保護の除外自由に該当しないことが必要です。次に、著作権の保護期間については、日本と同じように、著作者の生存期間中及び死後70年間存続することになります。

 また、イスラエルにおいては、米国著作権法の影響などにより、フェア・ユースに関する規定を置いています。フェア・ユースとは、「一定の公正な利用は著作権者の許諾がなくてもできる」とするものです。「個人的な研究、調査、批評、レビュー、ジャーナリズム的な報道、引用、又は教育機関による指導と試験」をフェア・ユースとし、裁判所がフェア・ユースの適用の有無を考慮すべき要素として、「使用の目的と特徴、使用された作品の特徴、作品全体との関係での量的・質的な使用の範囲、作品の価値とその潜在的な市場に対する使用の影響」を挙げています。

 なお、日本においては、米国やイスラエルのように一般規定による場合とは異なり、状況や場面などを特定した上で、細かい個別の例外規定を設けています。

6.救済手段等について

 イスラエルにおける知的財産権侵害に対する救済手段としては、日本と同様に、民事手続及び刑事手続があります。

  • ⑴ 民事手続

     イスラエルの裁判所においては、日本の知的財産高等裁判所のような知的財産事件を専門的に取り扱う裁判所はありません。

     また、民事訴訟の手続としては、各知的財産権の侵害行為に対して、裁判所が、継続的に侵害行為を禁止する恒久的禁止命令を出すことが可能です。また、損害賠償請求権として、金銭賠償を請求することも可能です。

     さらに、民事訴訟を提起する際には、暫定的な救済手段として、①仮差止命令、②アントン・ピラー命令(事前通知せずに一方的に裁判所から出される命令であり、敷地内への立入り、特定の物品や文書の捜索・検査等を認めるもの)等の制度が用意されています。
  • ⑵ 刑事手続

     イスラエルにおいては、意匠権侵害の場合は罰金、商標権侵害の場合は、3年以下の懲役または罰金、そして、著作権侵害の場合には、5年以下の懲役又は罰金が科せられます。

7.まとめ

 以上、イスラエルにおける知的財産法の概要を説明しました。もっとも、この記事は、一般的な事項をご説明したに過ぎませんので、個別具体的な事情については、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。

以上