イスラエルにおける紛争解決ついて
1.はじめに
イスラエルの民事裁判の制度及び手続、仲裁・和解に関する法令及びその特徴について説明します。
2.裁判制度
イスラエルでは、治安判事裁判所(Magistrate courts)、地方裁判所(District courts)及び最高裁判所(Supreme Court)の三審制が、原則として採用されています。
治安判事裁判所では、250万シェケル未満の金銭的な請求等の事件が取り扱われ、通常は1名の裁判官により審理がされます。
地方裁判所では、原則として3名の裁判官により控訴審の審理がされます。地方裁判所は、不動産、破産及び行政事件等の法律で定められた特定の分野についての管轄と、他の裁判所の管轄に属さない民事事件についての残余の管轄も有しています。
なお、交通、労働、少年、軍事、家庭に関する事件を扱う特別な裁判所も設置されています。
最高裁判所では、原則として3名の裁判官により上告審の審理がされます。
イスラエルには、陪審制度はありません。
3.裁判の開始
原告が訴状を裁判所に提出することで民事裁判が開始されます。
被告は、請求の種類等に基づいて定められた、60日等の特定の期間内に答弁書を提出する必要があります。
なお、イスラエルにおける民事的請求の消滅時効は原則として7年です。例外的に不動産、保険等の特別な消滅時効の期間が定められています。したがって、訴訟の提起のためには、消滅時効に留意が必要です。
4.民事裁判の特徴
イスラエルでは、他国と比較して、訴訟が多く、裁判官が多くの事件を抱えています。裁判の終了までに数か月から数年間がかかることが多いです。そのため、短期間の解決のために、調停、仲裁及び和解が利用されます。
イスラエルの裁判では、原則として規則や裁判所によりスケジュールや期限が管理されるため、当事者はそれに従う必要があります。ただし、期限の延長が許される場合もあります。
原則として裁判は公開されており、判決にはオンラインでアクセスすることが可能です。
5.証拠
イスラエルにはディスカバリー制度があり、相互に特定の証拠を開示する必要があります。ただし、依頼者と弁護士間のやりとりについて、弁護士秘匿特権等の開示義務の例外があります。
裁判で目撃者等の供述を証拠とするためには、原則として口頭の証言が利用されますが、それに代わって、宣誓供述書が利用されることもあります。
6.クラスアクション
イスラエルには、保険、環境、競争法、消費者保護等の特定の分野について、クラスアクション制度(the Class Action Law 5766-2006)があります。
一定の要件を満たす場合、クラスアクション制度を利用して集団訴訟をすることが可能です。
クラスアクションには申立人に集団を代表してクラスアクションを提起することを認める承認段階と、その後の審理の段階があり、申立人による承認申立書の提出、被申立人による回答、予備審理、和解案の告知等の手続があります。
7.上訴
控訴審への控訴には当事者による控訴が必要である一方で、上告審への上告には移送命令が必要です。
日本の裁判と異なり、イスラエルの控訴審では事実の審理は行われません。
8.外国判決の執行
判決が、イスラエルの国際私法に従って、管轄権を有する外国の裁判所によって審理されたものであること等の要件が満たされる場合、当該外国の判決をイスラエルにおいて執行することができます(the Foreign Judgments Enforcement Law 5718-1958)。
9.仲裁
訴訟が多く長期化しやすいイスラエルにおいては、早期解決のために仲裁が多く利用されます。
従来の仲裁法(the Arbitration Law 1968)では次のとおりの規律がされていました。
仲裁合意は書面でされる必要があります。仲裁人についての当事者間の合意がない場合、裁判所が仲裁人を決定します。裁判所は、退職した裁判官や評価の高い弁護士を仲裁人として選ぶことが多いです。
仲裁開始から遅くとも6か月以内に仲裁判断がされなければならないとされています。
イスラエルはニューヨーク条約加盟国であるため、イスラエルにおける仲裁判断を日本で執行することが可能であり、日本等の加盟国における仲裁判断をイスラエルにおいて執行することも可能です。
2024年に、UNCITRALモデル法に基づいた国際仲裁法(the International Commercial Arbitration Law)が採択され、仲裁人の権限の明確化、仲裁人のデフォルトの人数を明確化する等、現代的・国際的な紛争に対応するための改正がされ、より効率的な紛争解決のための利用が期待されています。
10.調停
仲裁と並んで、調停が最も一般的なADR(Alternative dispute resolution)の一つとして利用されています。
治安判事裁判所管轄の事件で、調停の試みが義務付けられることもあります。家庭裁判所管轄の事件で、訴状提出の前に、和解の提案が義務付けられることもあります。家庭裁判所では家庭問題に関する特別な訓練を受けた専門家が配置され、この専門家の関与による和解の試みがされることがあります。
裁判の手続の進行の前に、裁判所が当事者に調停を勧め、裁判所が選任した調停員による調停の機会が設けられることが多いです。
公開が前提となっている裁判と異なり、調停はプライバシーと秘匿性が高いことがメリットの一つとされています。
11.まとめ
以上、イスラエルにおける紛争解決の概要を説明しました。もっとも、この記事は、一般的な事項をご説明したに過ぎませんので、個別具体的な事情については、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。
以上